nl/minato_対話カフェ第1回・開催レポート

2016年8月20日(日)SHIBAURA HOUSEフレンドシップ・プログラム2017の一環として、nl/minato_対話カフェ「わたし」らしく生きること~ジェンダー・セクシュアリティをめぐって・第1回を開催しました。参加者・スタッフ合わせて19名が会場のご近所ラボ新橋に集い、ゲストによるトークの後、参加者全員で対話を行いました。

 

「わたし」らしく生きるって、どういうこと?

ジェンダーやセクシュアリティは、「わたし」らしさをつくる、大切な要素。

そのありようは、ひとつではない。

その場によってもかわるし、人との関係によっても、かわり、ゆらぐかもしれない。

日常生活の経験からジェンダーやセクシュアリティについて語り合うことを通して、

多様な私が「わたし」らしく生きる道のありようについて、考えてみませんか。

 

これが、今回の企画にあたって考えたメッセージです。私たちはこれまで、『東京迂回路研究』という事業を通して、ジェンダーやセクシュアリティについて考える機会がありました。そこで感じたのは、ジェンダーやセクシュアリティは、「わたし」が「わたし」として生きるアイデンティティの問題であると同時に、日々の生活で出会う人々との関わりのなかで、揺らぎ、変わっていくものではないか、ということです。

しかし一方で、障害のある人や性的マイノリティなどを含む様々な立場の人が集まって、それぞれの経験からジェンダーやセクシュアリティについて考える場は、案外少ないのではないでしょうか。そこで、立場の異なる人々が集まって、互いに安心して聴き、語り合えるような場をひらきたいと考えたのが、今回の企画の発端です。また、このような場づくりを地域で継続的に行っていくきっかけになればと考え、超☆多YOU SAY会議、ご近所ラボ新橋、芝の家と協働で、企画・運営しています。

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第1回のテーマは、「カミングアウトした/された先に何がある?」。ぷれいす東京で活動されている佐藤郁夫さんをゲストにお迎えし、ゲイ・HIV陽性者としての立場から、お話しいただきました。カミングアウトとは、自分のセクシュアリティをはじめとする、自分にとって大切だけれども人に話し難いことを、誰かに伝えることです。

まず、セクシュアリティの多様性やHIV治療の現在の話題から。セクシュアリティは、そもそも多様であることが知られるようになってきていますが、佐藤さんによれば、多くの性的マイノリティは社会のなかで隠れて生活しており、親にカミングアウトしている人は約14.9%です。一方、HIVは、早期発見・早期治療により、長生きできる時代になりました。しかし、かつての「HIV/エイズ=死」のイメージによる差別や偏見が根強く残っており、感染した人自身もそのことを受け入れられず、誰にも話せない状況があるといいます。そのような状況で、「誰かがそのことを話してくれたとしたら、それはあなたを信頼して話してくれているということ。そのことについて他人に聞こえる環境で話すことは、アウティングにつながる。逆に、特別扱いすることもしないでほしい」と、一昨年に一橋大学で起きたアウティング事件を例に挙げながら語られました。

続いて、ゲイ、HIV陽性のカミングアウトにいたる、佐藤さんご自身の経験について、エピソードを交えて語られました。誰に伝える/伝えないか。家族、親戚、元カレ、恋人、高校や大学の仲間、職場など、分かってもらえる人を選びつつ、話さないことでそれまでの居場所も確保しながら、慎重に伝えていったそうです。「伝えられた側もそこから悩む。それが課題だと思う」。なかでも、感染の分かった病院で、やめた会社の同僚に電話しまくった、という話が印象的でした。「今から思うとそんなことしなくてもよかったんだけど、誰かに認めてもらいたかったんだと思う」と佐藤さん。あるデータでは、病気をポジティブに受け入れられるようになるまでに、5年ほどかかるそうです。佐藤さんの場合は、陽性者スピーカーとしての活動がきっかけでした。

発信者としての佐藤さんの活動は、周囲の人々の無理解のせいで誰かを傷つけたり、死に至らしめたりすることをなくしたい、という思いに端を発しています。家族の拒絶にあって治療をやめた人、透析を続けてきた病院でHIV感染をきっかけに拒否された人、故意に感染させた人が、結果として自死を選んでしまったこと…、最近でもこのようなことが起こっているそうです。しかし、佐藤さんは、「一人の存在が、5年間でこんなに(周囲を)変化させる」例として、自身が通っている病院での対応の変化を挙げられました。最後に、今日のイベントにも参加してくださった現在のパートナーとの結婚式の写真で、トークを締めくくられました。

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後半は、対話の時間。まず、佐藤さんのお話を聞いて感じたことや考えたこと、聞いてみたいことを、問いの形にして紙に書きました。それを床に並べて、みんなで眺めます。集まった問いは、「“家族になる”とは?」「結婚とは?」「パートナーをこの人!と決めたキッカケは?」など家族やパートナーシップに関するもの、「LBGT当事者としてカミングアウトする際、相手の立場や環境をどう考えればよいか?」「カミングアウトした/されたときの不安や心配はどんなことか?」などカミングアウトに関するもの、「LGBTの人々の社会的課題は?」「“わたしらしさ”を理解してもらいやすくなるにはどうしたらいいか?」「女性、男性の性差をなくしてなお、何かに惹かれているのだとしたら、“性”とは何だろうか?」などに分かれました。

今回は、問いの数が多かったカミングアウトにまつわる話から、対話を始めることにしました。ここからは、参加者の個人的経験も含めて語られる、「今日ここだけのお話」。会場にあったくまのプーさんのぬいぐるみを、マイク代わりに回しながら話しました。印象に残っているのは、カミングアウトする/されるときの、互いの距離感についての話題です。「信頼している相手だからこそ言えないこともある」、「いったんカミングアウトすると、“そういう人”としての言動やふるまいを求められ続けることもある」、「カミングアウトしようがしまいが、“わたし”を認めてくれる人がいればいいとどこかで思っている」、「自分では分かっているのに伝えていないことがあると、嘘をついているような気持ちになる」…。カミングアウトについて、それぞれの立場から語られることを聞き、考える時間でした。

参加者アンケートでは、「LGBT当事者と、その他の人で、話したいテーマが異なりますね」「カミングアウトは、ポジティブ(切羽詰まった、抱えきれなくて…)とネガティブ(仲良くなりたい、周囲を巻き込む目標のため…)で、色々異なりますね」「当事者の方に直接話を聞くのは初めてで、そのような場としてよかったと思う」などの感想がありました。

今回は、それぞれの問いを出し合うことから始めたので、対話の時間が短くなってしまいました。立場の異なる人と共に問いを深めていくには、じっくりと考える場を継続的に開いていく必要があることに、あらためて気づかされました。9月16日(土)に開催予定の第2回で、引き続き考えていきたいです。

第2回の詳細、お申し込みは、こちらからどうぞ

(三宅博子)