【週報】4月、「東京迂回路研究」3年間を終えて

4月になりました!
新しい環境で、新しい生活を始める人も多い季節。
私たちにとっても、大きな変化がありました。

2014年に開始したプロジェクト「東京迂回路研究」が、2017年3月をもって、終了いたしました。

「東京迂回路研究」3年目。
これは同時に、「東京迂回路研究」という3年にわたる事業の最終年でもあり、昨年度は常にこのことをどこかで意識しながら活動してきた1年間でした。

この3年間で取り組んできた、東京の「迂回路」を「さぐり」、「つなぎ」、「つくる」ということ。

抽象的なテーマを、どれだけ具体的なプログラムに落とし込み、
言葉にし、伝え、共有し、ともに問い、話し、考えていくことができるか。

「わかりにくい」と言われてしまう場面も多々ありましたが、それでも「なんだかおもしろそう」「自分にも必要だから」と活動に賛同し、協力してくださったみなさまがいたからこそ、3年間の事業はあったのだと思います。

「迂回路」をめぐる旅のような日々、その試行錯誤のなかで、見、聞き、感じ、体験し、出会ってきたこと、もの。
それらに学びながら、歩んでくることができました。

依頼を快く受けてくださったゲストの方々、事業実施協力者の方々。
厳しくも温かい視線を注いでくださった共催団体の方々。
イラストやデザインで多大なる協力をしてくださった方々。
そして、私たちが開催するイベントに足を運んでくださった方々。
そうした方々と交わした言葉に学びながら、歩んできました。
ここでそれぞれのお名前をあげることはできませんが、みなさまに改め
て感謝を申しあげます。
ほんとうにありがとうございました。

私たちはこれまで、あらゆる現場で息づいているであろう思考と創
造性、その豊かな営みを丁寧に見ていくことで、生き抜くためのヒン
トを得ること、それを関心のある人々に伝えていくこと、そしてまた
共に考えることを目指してきました。

今後も、かたちは変わるかもしれませんが、こうしたことを続けていきたいと強く思っています。

もちろんNPOは続きますが、2017年3月をもって、事務局は解散となります。

またどこかでお会いできたら嬉しいです。
今後とも、どうぞよろしくお願いします。

(井尻貴子)

【週報】地域の物語2017 『生と性をめぐるささやかな冒険』演劇発表会を観て

花が咲き、いよいよ春めいてきましたね。
事務局では、「JOURNAL東京迂回路研究」の発送作業にいそしんでいます。

先日、世田谷パブリックシアターに、演劇を観に行きました。
タイトルは、「地域の物語2017 『生と性をめぐるささやかな冒険』<女性編><男性編>発表会」

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「地域の物語」は、世田谷パブリックシアターが、参加者を公募して行っているワークショップ。「その年ごとにテーマによって集まった一般の方々が、ワークショップのプロセスを通じて発見したこと、伝えたいと思ったことを発表作品へととりまとめていくプロジェクトです」(パンフレットより)。

今回のテーマは「生と性」。
パンフレットには、こう書かれていました。

「男性」であることや「女性」であることは、
そのうちに、その中に、さまざまな多様性があり、
グラデーションとなっている。
そういうふうにして、私たちは「性」を生きているんじゃないか。

舞台は、それぞれの参加者の体験をもとにした短いシーンがいくつも連なって、一つの作品になっていました。年齢も経験も様々な人たちによって演じられるシーンを観ていると、自分自身の経験が呼び起こされたり、母や祖母の顔が浮かんできたりして、ぐっと自分をえぐられるような気持ちにもなりました。

なかでも印象に残ったのが、〈女性編〉の、「女になることについて」というシーンです。
車椅子に乗って登場した女性が、「女でいるだけでは、女になれない気がしている」と語りました。「女というより、障害者として見られてきたと思う。家事や、化粧など、何かをしなければ、女に見られないのではないかと思ってしまう。」
「障害」というラベルを張られてしまったがゆえに、「女になること」、「自分になること」を阻まれてしまう人。私自身も「障害/健常」のラベルを誰かに張ってしまっていることに気づかされつつ、「女になること」とは何だろう、と考えさせられるシーンでもありました。

自分自身のことを表現する出演者たちの表情が、とても生き生きとし、自信にあふれていて、素晴らしい舞台だと思いました。舞台を通じて、自分が当たり前だと思っていたことを揺さぶられたり、気づいていなかったけれど感じていたことが湧き上がってきたりする時間でした。

(三宅博子)

【週報】JOURNAL 東京迂回路研究 3、発行しました!

先日、ついに「JOURNAL 東京迂回路研究 3」が、完成しました!

「東京迂回路研究」のジャーナル、3号目。
前号より、すこしボリュームアップしての発行となりました。

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昨年末からの執筆、編集作業。
今年は、ジャーナル発行記念イベントも予定していたため、
果たしてイベントに間に合うだろうか・・・と不安になったときもありましたが、
なんとか1冊のかたちにまとめることができました。

今号は、これまで同様、研究所員だけでなく、この1年間の活動に参加してくださった皆様からも寄稿いただいています。
これは、「東京迂回路研究」というプロジェクトにおいては、とても重要なことだと考えています。

私たちが目指してきたのは、多様な人、それぞれが、それぞれのままに、互いを活かしあって創造していく社会。

いろいろな人の実践や経験や視点が、また別の人々にヒントを与え、新たな道が生まれていく社会。

ささやかながら誌面でも、そうした状況をつくれればと考えています。
ご協力くださったみなさま、ありがとうございました。

「JOURNAL 東京迂回路研究 3」、ぜひ多くの方に、ご覧いただきたい、手にとっていただきたいです。
そしてお時間ありましたら、ぜひ感想をお聞かせください。
それがまた、私たちにとって、新たな道への道標になると思っています。

*「JOURNAL 東京迂回路研究 3」は、下記のウェブページより全編ダウンロードしていただけます。
また、送料をご負担いただくかたちになりますが、ご希望の方には配布しています(配布受付は2017年3月31日まで)。
よろしければ、下記ページの「お申し込みフォーム」よりお申し込みください。
お待ちしています。
http://www.diver-sion.org/tokyo/program/journal3/

(井尻貴子)

【週報】「ささやかさ」に目を向けること:藝大音環の卒展に参加して

こんにちは、研究所員の石橋鼓太郎です。
三寒四温の日々が続いていますね。

さて、先月の初め、2月10日から12日にかけて、私が現在通っている東京芸術大学千住キャンパスにて、「東京藝術大学音楽環境創造科/大学院 音楽音響創造・芸術環境創造 卒業制作・論文/修了制作・論文発表会」が実施されました。
展示・コンサート・音響作品・映像作品など、さまざまな形態の卒業・修了作品と、卒業・修了論文が、キャンパス内のあらゆる教室で発表されました。

その中で、印象的だったのが、いくつかの作品や論文の中に、何か共通するような問題意識が見えてきたことです。
例えば、松浦知也さんの《送れ | 遅れ / post | past》は、記憶や記録という行為の曖昧性や流動性に着目し、情報が空間の中を流れ続けることで結果的にその「記録」がおこなわれるようなシステムが組まれた作品でした。
また、渡辺千加さんの作品《Player》では、「おもちゃ楽器」という楽器と玩具の間にあるものを使って、コンサートと遊び、演奏者と鑑賞者の境界を曖昧にすることが目指されていました。
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あるいは、前田菜々美さんの《ケに介入しうごめいて、ケに完結する日々のこと》では、個人の創造性がみんなで集まる「ハレ」の時間に集約されてしまうことへの疑問から、個人的な「ケ」の時間に始まり「ケ」の時間に終わるような実践とその言語化が試みられていました。

他にも面白い作品や論文がたくさんあったのですが、紹介はこのくらいにして…
その多くに共通するように感じられたのは、強固な全体性に対峙するために、その外部に別の強固なものを打ち立てるのではなくて、そのミクロな内部における断片性・曖昧性・流動性・瞬間性などに着目し、そこから全体を浸食していくようなことを試みた実践であったということです。つまり、ある社会や共同体のあり方をセンセーショナルに糾弾するのではなく、個人の実感にもとづいた小さくもやもやとしたもの・ことを丁寧に拾い上げ、それを作品や論文といった形に落とし込んで他者に伝えていくようなものが多かったように感じられたのです。それは、「ささやかさ」に目を向けること、と言い換えることもできます。

翻って考えてみると、このような態度は、今年度の東京迂回路研究の考え方にも共通する部分があるように感じられます。今年度、東京迂回路研究では、「迂回路」という言葉を次のように捉えなおしました。

「迂回路」とは、行き止まりに突き当たった人々が脇に逸れて新たに開拓する道なのではなく、日常の中における自分と他者の関係、そして自分と自分の関係が変わることで、他者との間に立ち現れてくるような道なのではないか(本年度事業概要文より)

自らの実感に基づいた、分かりにくくもやもやとした「ささやかさ」に目を向けること。そしてそれを丁寧に拾い上げ、形にし、他者に伝えること。それは、もしかすると、制作者それぞれにとっての「迂回路」の探求であるとも言えるのかもしれません。今回の卒業制作展では、そのことの大切さと切実さが、筆者と同年代の人々の間でそれとなく共有されつつあるのだ、という希望を感じることができました。

(石橋鼓太郎)

【週報】ジャーナル発行記念イベント 第2部トークセッション

3月17日(金)に開催する、今年度最後のイベント。
「JOURNAL 東京迂回路研究 3」発行記念イベント:生き抜くための”迂回路”をめぐって。
今日は、第2部のトークセッションの内容をご紹介します。
(第1部:幻聴妄想かるたをつかった「ジェスチャーかるた大会」の紹介記事はこちら)
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第2部:トークセッション「迂回路をつくるということ」
ゲストは、ハーモニーの新澤克憲さん、カプカプの鈴木励滋さん、caféここいまの小川貞子さん。進行は、文化活動家で、多様性と境界に関する対話と表現の研究所理事でもある、アサダワタルさんと、研究所員の三宅がつとめます。これらの方々は、今年度、東京迂回路研究が「迂回路をつくるということ」について考え、実践するなかで出会った方たちです。

「迂回路」とは、人が生きるなかで言いようのない困難や生きづらさに突き当たったとき、それでも、既存の枠組みや境界をずらしながら、歩きぬくことができるような道のこと。東京迂回路研究では、生き抜くための「迂回路」を、3年間かけて探求してきました。
その過程を経て、今、「迂回路」を、次のように考えています。

ある個人や団体が新たに開拓する道であるだけでなく、誰かと誰かとのあいだや、何かと何かとのあいだに立ち現れる道、人と人との関わりのなかで次第に見出されていくような道である。つまり、「迂回路」とは、様々な人との関わりのなかで発見される「こうもありえる」というありようであり、その意味で唯一の道ではない。それぞれに、それを探っていく営みのなかで、そこここに「迂回路」はかたちづくられていく。 (「JOURNAL 東京迂回路研究 3」、18頁)

                 

ハーモニー、カプカプ、caféここいまは、いずれも、そのようにして生まれた「迂回路」であると同時に、そのような「迂回路」が生まれる場=「こうもありえる」というありように気づくヒントを与えてくれる場としてもあるように思っています。

ハーモニーは、東京都世田谷区にある障害者就労継続支援B型事業所。不思議な声が聴こえたり、思い込みを超えた確信があったりするメンバーの経験を「幻聴妄想かるた」にすることで、仲間と経験を共有し、一人ひとりの物語を書き換えていくような場をつくっています。

カプカプは、横浜市内で4つの喫茶店を運営する地域作業所。知的障害のある人たちが、それぞれのそれぞれらしさを生かして多様なはたらきかたを模索する場であると同時に、地域の人たちが集い、つながる場づくりを行っています。

caféここいまは、大阪府堺市にあるコミュニティカフェ。浅香山病院精神科病棟の看護師だった小川貞子さんが、2015年に立ち上げました。駅前の商店街の一角にたたずむ「一見、普通の喫茶店」は、精神障害のある人が地域で暮らすための居場所や、地域住民との交流を育む場となっています。

それぞれ別の場所で、別々の道のりを辿ってきた、三つの場所。
これらの場が「迂回路をつくる」というテーマのもと、今、こうして出会うことに、ある種の必然性を感じています。そこには、全く異なる成り立ちでありながら、ある共通の「ふるまい」の積み重ねがあるように思われるのです。
アサダさんはそのことを、次のように言われました。

「それは、自分たちの現場で問題と丁寧に向かいあうことでたどり着いた、いわゆる「アート」や「医療」「福祉」などとは異なる方法による「表現」の仕方であり、それがあるときは「カフェ」「幻聴妄想かるた」「場そのもの」などのかたちとして現れているものなのだと思う」(事前打ち合わせでの会話より)

この言葉を聞いて、私がとても印象深かったのは「表現」という言葉です。これまで「多様性と境界に関する対話と表現の研究所」という団体名を掲げて活動しながらも、「表現」という言葉そのものに取り組む機会は、あまりありませんでした。ですが、アサダさんのいう「表現」とは、まさに「迂回路」のありようそのものだとも言えます。これまでやってきたことを大きく振り返り、次の一歩へとつながる視点に、わくわくしています。

それぞれの場で、その時々に直面する問題に対して、どのように試行錯誤しながら方向を見出し、今あるようなかたちが作られていったのか。その過程を紐解くことで「迂回路をつくる」手がかりを得ながら、私たち一人ひとりが、そこここで「迂回路をつくるということ」について、じっくり考える時間になればと思っています。

当日は、出来立ての「JOURNAL 東京迂回路研究 3」に加えて、バックナンバーの1号と2号もお持ち帰りいただけます。

ご参加お待ちしています! 
お申し込みはこちらからどうぞ→http://www.diver-sion.org/tokyo/program/journal3-event/

(三宅博子)