気づけば、12月も半ば。今年も残り僅かとなりましたね。
みなさま、いかがお過ごしでしょうか?
私は先日、前橋に行ってきました。
今年、群馬大学とアーツ前橋が連携し開催する、アートマネジメントについて学ぶ講座「まえばしアートスクール計画」の1コース:実践B「まちなかだれでも場づくりコース」のコーディネーターとして企画・運営を担当しています。
その一貫として12月9日、10日の2日間にわたり集中講座を前橋で開講していたのです。
今回は、そのなかで体験した「ギフトサークル」というワークショップについて、すこし書いてみたいと思います。
ファシリテーターは、元慶應義塾大学・京都造形芸術大学教授で、いまはOurs Lab.を共同主宰されている熊倉敬聡さんです。
「ギフトサークル」の内容はいたってシンプル。簡単にお伝えすると、下記のとおり。
1)参加者全員で輪になり、
2)NEEDS:いま、自分が必要としているもの・ことを、1つずつ言う。一周したら、こんどは
3)GIFTS:いま、自分が提供できるもの・ことを1つずつ言う。一周したら、
4)マッチング:自分が必要としているもの・ことを提供してくれそうな人、あるいはその逆の人が見つかったら、それぞれ話してみる。
GIVE&TAKEにならなくてOK。Aさんから提供してもらうだけ、Bさんに提供するだけ、Cさんに提供し、Dさんに提供してもらう、というのもOK。
というものでした。
5)最後に、感想を共有して終了。
*NEEDSとGIFTSは、ホワイトボードなどに書き留めておく。
ところが、シンプルなのですが(あるいはシンプルゆえに)奥が深い。
ひとことでNEEDSとGIFTSといっても、それぞれが述べる具体的な内容は、バラエティに富んだものでした。
「車がほしい」「毎年、お米か蜜柑を送ってくれる人がほしい」というものから、「掃除をしてくれる人がほしい」「こんなときどうすればいいか、アイディアがほしい」というものまで。
「りんごお裾分けします」「漫画貸します」というものから、「料理つくります」「出張スナックします」というものまで。
初対面の方も多かったのですが、「その人が必要としているもの・こと」「その人が提供できるもの・こと」とそれにまつわる小さなエピソードから、その人自身がかいま見えるように思えます。
マッチングの時間には、そこここで、思いもよらなかった交換が生まれていく。
ボードにGIFTSを一覧にして書き留めていたことで、それらをつなげたら、こんな場ができる!と想像できる。
新しいことが生まれそうで、わくわくする。
場が活気に満ちていく、場の熱があがっていくのを実感しました。
感想共有の時間は、楽しかったという声が多数。
なかでも、自分が何かを提供できるというのが嬉しかった。
自分にとっては不要のものでも、捨てるのではなく、誰かに活用してもらえたら嬉しい。
といった、GIFTする喜びのようなことを述べた人が多かったのが印象的でした。
貨幣を介さない交換。そこから生まれるつながり。
自分たちそれぞれのできることが、新しいことを生み出していく可能性があるという希望。
それは、私たち自身を勇気付けるものなのかもしれない、と感じました。
熊倉さんには、ワークショップの前に1時間ほど、これまでの活動・実践についてお話を伺いまし
た。
さまざまな実践のきっかけとなった「weekend cafe」のこと、大学を地域・社会へと開く新しい学び場「三田の家」のこと、京都で立ち上げメンバーの一人として関わった変革の道場「Impact Hub Kyoto」のこと、そして比叡山の麓で仲間とともに展開中の「上高野くらしごと」のこと。
それぞれに試みたこと、できたこと、できなかったこと、いま試みていること。
それらはすべて、自分の生きる場を自分でつくっていくという活動・実践のように思えました。
そのなかで、art of living という言葉が出てきました。
熊倉さんは、Ours Lab.のウェブサイトのなかで、下記のように記しています。
私たちが志すところは、生活と生業(なりわい)の融合です。そして、その融合のために私たちが行う創造的活動を(うまい日本語にならないので)Art of Livingと呼んでいます。
Ours Lab.は、そのArt of Livingの実験・実践場です。
東京迂回路研究という事業をすすめるなかで、ずっと私自身のテーマとしてあったのは、この art of living ということでした。
直訳すると、生の技法、生きるための技法、という感じでしょうか。
私たちは、生きていく。
その過程で、どうしようもない生きづらさ、生きにくさを感じることもあるだろう。
そのとき、自分で、その生きる道をつくりだす術をなんらかもっていないと、立ち行かなくなってしまうのではないか。
そんな危機感が、私自身のものとしてあります。
私たちひとりひとりが、他者と協働しながら、自分たちの生きる道、生きる場をつくりだすことができるという、技術や自信を持てれば、もっと希望を持てるのではないだろうか。
こうしたらよいんじゃないかという予感。これまでの枠組みをはずれていくことが新たな可能性をひらくという実感。
それがわずかでもあれば、また歩いていける道を、生きられる場を、つくるあるいはみつけることができるのではないか。
そのためには、ただなにかを一方的に消費、享受しつづけるような暮らしではなく、いろいろな交換が起こるような場をもっていく必要がある。
そうした場をつくっていくことができたらいいなと改めて思いました。
(井尻貴子)