【週報】来た道と、行く道:齋藤陽道さんとの打ち合わせ、NPO法人総会

こんにちは、スタッフの三宅です。
今週は、私たちが「東京迂回路研究」で辿ってきた道をふりかえり、これから歩もうとする道に思いを馳せるような、二つのことがありました。

一つは、写真家の齋藤陽道さんとの打ち合わせ。
齋藤さんは、「JOURNAL 東京迂回路研究 1」の巻頭ページで、千葉県木更津市にある宅老所「井戸端げんき」の写真を撮ってくださいました。私たちがもやもやフィールドワークで訪れた際にすっかり魅了されたその場の空気感や、人と人とが互いの存在を許し合いながら共にいる姿が、見事に映し出されています。
アウトドアっぽい帽子にサンダル履き、少年のようないでたちで現れた齋藤さん。打ち合わせは、筆談を中心に、身振り、声での会話を交えて行います。この様子がとても面白いのです。文字を書くスピードや大きさ、位置、筆圧、クセ、互いのテンポや感情のニュアンス、間…。それぞれ片手にペンを持ち、お互いが紙に言葉を書き込んでいく有様は、まさに「書く即興対話」。打ち合わせ後に残るメモも、手書きの文字による対話の軌跡がまた、いい!
話のなかで齋藤さんが「『迂回路』っていうこと、今はどんなふうにとらえてますか?立ち上げのときと、今、ちがいはありますか?」と尋ねられたところから、ぐっと話が深まっていきました。容易にマニュアル化できないような「もやもや」した思いや場のありよう、そのユニークな個別性と、個性を育む土壌のなかにある、共通性。昨年出会ってきた人々や場をひとつひとつ思い浮かべながら、それらを切り/結ぶ糸をゆっくりとたぐっていきたいと思いました。

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二つ目は、NPO法人の年次総会。
特定非営利活動法人多様性と境界に関する対話と表現の研究所(やっぱり長いですね)は、6月19日で、法人設立1周年を迎えます! そこで、理事の皆さまに事務所へお越しいただき、法人の年次総会を開催しました。
理事の方々からは、diver-sionのこれまでと今後について、様々な質問やコメント、ご提案をいただき、充実した時間になりました。おだやかな語り口で的確な助言をくださる姿は、心強い「賢者」さながら。今年は、そんな理事の皆さまのご紹介もどんどんしていきたいと思っていますので、お楽しみに!
ここでも話題になったのは、「迂回路」という言葉で、どんなことをしてきたのか? これからしていきたいのか? という問い。たんに何かの現場を調査して報告するような「研究」ではなく、たんに誰かの表現を作品として展示するような「アート」でもない、研究という枠組みを用いることで、出会うことのなかった人たちが出会う場を創る、いわば表現活動としての「対話」の試み…。どこへ向かうのか分からない旅ですが、とにかく進んで、いろんな人と探っていきたいです。

というわけで、1年という月日が巡り、あらためてスタート地点に立って思う、「対話」の可能性と境界。今週、6月18日(木)の「もやもやフィールドワーク報告と対話編・第7回」は、「対話は可能か?」がテーマです。ぜひお越しください。

対話は可能か?

代表の長津です。

6月4日(木)は、東京迂回路研究を共催しているアーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)の新オフィスに行ってきました。
これまで東京文化発信プロジェクト室にお世話になってきましたが、今年度から組織統合によりアーツカウンシル東京になりました(お世話になっていた中の人はほとんど変わっていないのですが)。オフィスもそれにあわせて移転。これまでは両国にオフィスがあり、かつて両国在住だった私としてはとても親近感があったのですが、新オフィスは市ヶ谷に移り、本当にオフィス街といった感じでした。
ほかの共催団体のみなさんもいろいろ集まっておられて、今年の抱負を話すというようなキックオフ会がありまして、私もプレゼンしてきました。

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※せっかく研究所メンバー全員で行ったのに写真を誰も撮っていなかったという。アーツカウンシル東京の広報の森さんに撮っていただきました。いつもお世話になっています。

私からは、今年の事業の目標と、組織の目標をお話しました。
1年間やってきたことで、出会ってきた人たち同士を出会わせるような、「迂回路をつなぐ」ことを目指すのが今年の目標です。しかし世の中にはいろんな人たちがいる。さまざまな立場で、わかりあえる人たちとわかりあえない人たちがいるなかで、どのように「対話」していくことが可能なのか。
また、「迂回路ってイイですね!すごく共感します!」といってくれる人たちと、私たちはすべてをわかりあうことができるだろうか?ということも最近考えています。
そんなわけで、「対話は可能か?」。これは次回のもやもやフィールドワーク 報告と対話編のテーマでもありますけれど、これを1年かけて考えてみたいなと思っているところです。(まだ申し込み受け付け中ですが、残席僅少です。お申し込みはお早めにどうぞ)

六本木ヒルズでのプレゼンを経てなのかなんなのか、「プレゼンがうまくなった」「惹きつけられた」「いやむしろ、うさんくさくなった」などとさまざまな声をいただきましたが、今年もそんな声にはめげずに、進んでいきたいなと思います。(うさんくさいってどういうことなんだろう、とあのあと考えているのですが…うーん)

あ、その六本木ヒルズでのプレゼンですが、動画で見られるようになりました。自分ではお恥ずかしくてまったく見返す気持ちになりませんが、よろしければこちらからぜひご覧になってみてください

事業案内パンフレットが完成しました!&「自己再帰性」に関するあれこれ

こんにちは。インターンスタッフの石橋です。
東京迂回路研究、今年度の事業案内パンフレットが完成しました!
昨年度よりも鮮やかなブルーです。

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今年度は、
①もやもやフィールドワーク 調査編・報告と対話編・分析編
②フォーラム 「対話は可能か?」
③活動報告 JOURNAL 東京迂回路研究2
という3つの大きな軸を中心に活動していく予定です。
詳細は随時WEBにアップして参りますので、是非チェックしていただければ幸いです!

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さて、WEBにも報告がアップされておりますが、5月30日(土)、「もやもやフィールドワーク 分析編」を開催しました。ゲストは、文化人類学・医療人類学がご専門の、筑波大学助教の照山絢子さん。フィールドワークをおこない、そこで得た情報を分析し記述する過程で生じる、さまざまな困難について、照山さんのプレゼンテーションをもとに、活発な議論をおこないました。

中でも個人的に印象的だったのが、会場からも多数指摘があった、調査・記述を行う上での「自己再帰性」についての話。「自己再帰性」とは、文化人類学の分野において発展した概念で、調査者は「透明人間」にはなれない、という反省のもと、フィールドにおける「自分」に意識的になり、調査協力者との関係性の中に自分を位置付けたうえで記述をおこなう、というものです。

私事で恐縮ですが、ちょうどその前日、大学のゼミで卒業論文の指導がありました。論文のテーマは、自分が運営に深く携わっていたアートプロジェクトについての分析。どう記述していいものか、とちょうど悩んでいた時に、ちょうど「自己再帰性」についての話をお聞きすることになりました。自分はプロジェクトの運営に携わることで「自己再帰的なフィールドワーク」をおこなっており、その上で、自分を関係性の網の目の中に位置づけた「自己再帰的なエスノグラフィー」を記述する、という考え方が、論文の執筆に大きなヒントを与えてくれることに気づき、ひとりで感動しておりました。笑

こちらも私事になってしまうのですが、分析編の翌日は、アートマネジメント・文化政策関係の大学院生によるインターゼミナールを聴講。いろいろな大学のいろいろな発表を聴いているうちに、頭によぎったのが、先ほどの「自己再帰性」という言葉です。同じ分野でも、統計を用いた数学的な分析から、文化人類学的なエスノグラフィーまで、さまざまな手法を用いた研究がありましたが、不思議なことに、聴いていて説得力があるように感じたのは、客観的な分析を試みた発表よりも、「自己再帰性」について意識的になっている発表でした。

この不思議な「説得力」は一体なんなのだろう、と考えてみると、実はこの「自己再帰性」は、研究に留まらず、対話の場においても重要なキーワードなのではないか、と考えるようになりました。他人に投げかけたい内容について、その内容と自分との関係性に意識的になることによって、投げかけられた他人も、その内容と自分との関係性について考える。さらにその関係性を踏まえて言葉を投げかけることにより…というように、対話の出発点としての「自己再帰性」という捉え方もでき、これが研究における不思議な「説得力」の源だったのかなぁ、と思ったのでした。

論文執筆、がんばります。ではまた!

(インターンスタッフ・石橋鼓太郎)

名刺交換は即興セッション。:Hills Breakfastに出演しました

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代表の長津です。「東京迂回路研究」では毎週、研究所日誌として、週替わりでスタッフによる「週報」をお届けしています。

きょうは、東京迂回路研究を共催している「アーツカウンシル東京」の広報担当の方経由でお話をいただき、六本木ヒルズで毎月行われているHills Breakfastというイベントに登壇してきました。
朝8時から55分間、「PechaKucha」というトークイベントの手法(20秒でスライドが入れ替わる、20枚だけのスライドでプレゼンをするというフォーマット。建築家の人たちが、あまり話を長くなりすぎないようにって言ってはじまったプロジェクトだ、っていう話を始めて聞いてちょっとおもしろかった。たしかに建築の人って話が長い印象がある)を使って、わずか1時間で5人の話を聞けちゃうというイベント。

ぼくのプレゼンテーションのようすはそのうちYouTubeか何かにアップロードされるというので、当日の様子はそちらを見ていただくとして。
今回、すごく、なんというか、いい経験になったなということを、忘れないうちに言葉にしておこうと思う。

 

いちばんびっくりした瞬間は、終わった後の名刺交換会。
ぼくは研究者コミュニティだったり、アート系のコミュニティに普段顔を出すことが多くて、こういう会、一般的にいうと「異業種交流会」っていうのが近いかな、に行くというのは初めての経験だった。
ぼくは、わずか6分40秒のプレゼンテーションということで、「境界線」「迂回路」「もやもや」など、ふだんぼくたちが使っている言葉を伝えること、意識してもらうこと、それぞれの人のなかに身体化してもらうことを目指した。といってもそんなに大仰なものじゃなくて、ただ何か少しでも「もやもや」してほしいなと思ってお話をしたと思っている。
終わった後、好評だったのかどうかはわからないけれど、他の発表者の人同様、何人もの人が名刺の交換を迫ってきた。障害や生きづらさの問題についてアプローチしている人もいれば、これからの高齢化社会を憂う人もいたり、東ヨーロッパの民族舞踊をやっている人もいれば、中高年層の転職マッチングをやっている人もいる。たくさんの人と名刺を交換した。
とても驚いたのは、とにかく、ただ名刺を交換する、というだけの人はいなかったこと。そりゃあそうだよなと思うけれど、それぞれなんらか、名刺を携える人たちは、ぼくが話したことに対しての接点を見つけて話題を提供しようと、お話してくれる。「私はこういう仕事をしていて、でもこういうところに”もやもや”するんです〜」とか。「俺はいつも後輩に、エリート街道を行くんじゃなくて”迂回路”を通るほうが豊かなんだぞ、と教えてるんです」とか。一見、ぼくらの活動とはなんの接点もないけれど、いくつかのキーワードをもとに、なんとかかんとか接点を見つけて話しかけてくれることが、嬉しいような気持ちにもなりつつ、「ああこの人たち本当に大変だなあ、そうやって初対面の人との接点を見つけるように、社会のなかで訓練されているのかもしれないなあ」というふうに思ったりもした。名刺を交換することが自己目的化しているから、なのかもしれないな、と一瞬思った。
ぼくらの活動をともにしているスタッフの三宅さんや、インターンの石橋くんも一緒に来てくれたんだけれど(ぼく含めみなさん朝は強くないのに本当にありがとう)、ぼくのふるまいをみて「これから長津はソクラテスみたいになっていくのかな」と言ってたのが印象的だった。道を歩いているといろいろな難解な問いや、あらゆる切り口から発せられる言葉に対して、ばっさばっさと斬り倒していくような様を想像したらしい。ぜんぜん斬り倒すなんてことはしていなかったけれど、でもそうだなと思った。あらゆる方向の切り口から、ぼくらのやっていることに対して共感だったり反感だったりを寄せてくる様子っていうのが、哲学者がいろいろとものごとを切っていく姿に似ているかもしれないなと思った。まあ哲学者じゃないんですけど。名刺を持って並んでいる人たちをひとりひとり、ぜんぜん切り口で話しかけてくるその人たちに対して違う言葉でセッションする感じ、100人斬りという感じもしたし、即興音楽のセッションという感じもして、すごく疲れたけれど、すごく心地よかった。

 

 

こういう場所、すなわち、ぼくらの活動を心底理解していたり、話したらすぐ伝わるような人たちではない人たちが集まるところで話す、という経験の貴重さは、ほんとうに痛感した。ふだんは結構、いろいろなバッググラウンドの場所にお邪魔したり、お話をする機会に恵まれているけれど、それでも最低限、ぼくらがやろうとしていることに対して理解を示していたり、そうでなくてもどの立ち位置で話すべきかということを読み取ってくれる人が多い印象を持っている。だけれど、きょうの場はまったくそうではない場。思っていたより六本木ヒルズに勤務している人は少なかったようだけれど、一般的に言って「社会」を形成している、その最前線にいる人たちが集まっている場ではあったように思う。そりゃあそうですよね、六本木ヒルズに朝8時から来る、しかもそれに毎月来る、という人たちが半分以上いる200人規模のイベントですもん。超アウェー。ぼくはプレゼンの最後で「超リア充」っていう言葉をあえて使ったけれど、そういう形で「線引き」される人たちがたくさんいる場所で、それでも「迂回路」だのなんだの伝えることには、すごく意味があると思った。
なにも啓蒙活動として、「みなさんの生きている道は絶対じゃないんですよ〜、もうひとつの道があるんですよ〜」ということだけを言いたいわけではない。聞いている人にとってなにが響いて、どんな言葉だったら伝わるのだろうか、という、絶好のトライアルになるな、と感じたのだ。何が理解や共感を呼ぶのか、ということを試す場、として、こういう場を今後も踏んでいきたいなと思ったし、こういう「王道」がないことには「迂回路」が浮き彫りにならないな、ということも再確認した。

 

そういう意味で、とても有意義な会だったなと思う。
ぼくらはこれからどんどん迂回路を切り開いていきますから、時々はこっちのほうにも来てください。来なくてもいいけど。

 

 

(写真はインターンの石橋くんが撮ってくれました。朝早くからありがとう。動画を撮ってくれてた三宅さんもありがとう。アーツカウンシル[ちなみにぼくらは略して”アツカン”と呼んでますが]の森さん、坂本さんもありがとうございました)

「JOURNAL 東京迂回路研究1」を読んで

はじめまして!今年度よりdiver-sionにインターンとして参加させていただいております、石橋鼓太郎と申します。東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科の学部4年生で、学校では市民参加型の音楽プロジェクトについての実践と研究をおこなっています。どうぞよろしくお願いします!

さて、インターンスタッフとしての初仕事!ということで、diver-sionの昨年度の記録集「JOURNAL東京迂回路研究1」を読んだ上で、思ったこと、感じたことなどを、つらつらと書かせていただきたいと思います。

「多様性」と「境界」というキーワードについて、私が日頃から感じていることは、「境界」を全く引かずに「多様性」を尊重する形で他者と接することはなかなか難しい、ということです。例えば、電車で外国語が聞こえてきた時、私は「あ、外国人がいる」とどうしても思ってしまいます。特に差別感情はないつもりなのですが、そのように思ってしまうことそのものが差別なのではないか、そしてそれが誰かにとっての「生きづらさ」につながってしまうではないか、さらには自分も何らかの形でそのように見られていることがあるのではないか、などと思い、自己嫌悪に陥ることもしばしば。

しかし、このJOURNALを読むと、そのような「境界」をずらしたり、揺さぶったり、あるいはその「境界」を超えたところで他者と共感したりすることにより、「多様性」を実感することは可能である、ということが、あらゆる事例を通じて見えてくるように感じました。

いくつか印象に残った言葉を引用してみたいと思います。

まず、LGBTの里親制度に関する活動をおこなっている「RFC(レインボーフォスターケア)」の代表、藤めぐみさんの言葉。
「だんだん私は、マジョリティ/マイノリティの境界線など本当は存在しないのではないかという思いにとらわれていった。そこにはグラデーションがあるだけではないか、と。」

続いて、千葉県木更津市にある宅老所「井戸端げんき」の管理者、加藤正裕さんの言葉です。
「不器用でいろんなところを追い出されてきたボクが追い出されないようにするには、まずはボクが誰も追い出さないってこと。だから誰でも受け入れるし、排除もしない。そうしている限りはきっとボクは追い出されないだろうって思っている。」

本冊子で取り上げられている事例では、制度からの逸脱/その再解釈、独特の空気感を持つ場づくり、「個」同士の関係性の重視など、さまざまな仕掛けによって、人間がどうしても引いてしまう「境界」をずらしたり、揺さぶったりしています。このような仕掛けを通して、誰かが生きづらさを感じている、ということを、「マジョリティ」と「境界」で隔てられた「マイノリティ」の問題として扱わないこと。そこには「多様性」によるグラデーションがあるだけだ、ということを実感すること。そして、そのような考え方や感覚の転換を通して、多様な他者とともに受け入れ合うこと。このようなことが、誰かが生きづらさを感じた時の、生き抜くための「迂回路」の探求において、必要とされているのではないでしょうか。

そして、この冊子を読むと、東京迂回路研究における「対話型実践研究」も、そのような事例について調査し、対話の場を設けることで、他者との間にある価値観の「境界」を揺さぶり、参加者が自分自身の「迂回路」を探せるようなデザインがなされており、扱う事例と入れ子構造になっていることが分かります。

今年度は、このような活動をさらに深め、広げていくべく、さまざまなプログラムを計画中です。昨年度と同じくさまざまな施設/団体を調査しつつ、さらに研究的な視点を深めたり、現場同士の声をつなげたりするような、新しい試みも目下進行中です。詳細は後日、webにアップさせていただきます!

今後も何度か週報に登場させていただくかと思いますが、どうか温かい目で見守っていただければと思います(笑)。ではまた!

インターンスタッフ 石橋鼓太郎